COVID-19について about
COVID-19について:南学正臣
コロナウイルスのうち、ヒトへの感染が確認されているものは7種類存在する。コロナウイルスに感染した患者は、様々な重症度の呼吸器症状を呈するが、病原性の強い重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)が出現し問題となった。2019年12月、中華人民共和国の湖北省武漢市で肺炎患者の集団発生が報告された。以来この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症であるCOVID-19は世界に拡大し,世界保健機関は公衆衛生上の緊急事態を2020年1月30日に宣言した。激増するCOVID-19患者数は医療の現場に多大な負荷となり、病院で起こるクラスター感染などで診療規模を縮小しなければならない施設もあり、日本医師会の横倉義武会長は4月1日に記者会見を行い「医療危機的状況宣言」を公表した。4月7日には政府から東京、大阪など7都府県において緊急事態宣言が発令され、不要不急の移動や外出の自粛が求められ、4月16日には対象地域が全都道府県に拡大された。5月25日に緊急事態宣言は解除されたが、日本国内では2020年10月12日現在、クルーズ船での感染者を除き88,456名の感染が確認され(*厚労省発表)、1,626名の方が死亡している。
COVID-19感染症の初期症状は非特異的でCOVID-19と他の感冒との区別は困難である。多くは、発熱や呼吸器症状が1週間前後続き、強いだるさ(倦怠感)を訴える方が多い。Zhouらによる武漢からの報告では、発熱94%、咳79%、痰23%、倦怠感23%、下痢5%と報告されている1。
潜伏期間は1~14日(一般的には約5日)とされている。重症化のリスク因子として、高齢や基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、悪性腫瘍、慢性呼吸器疾患など)が知られている。感染予防の詳細は各章に記載されているが、状況、職種、活動種類に応じたCOVID-19流行時におけるPersonal Protective Equipment(PPE)の使用例を表に示す。現時点では、明確な有効性がエビデンスとして確立されている抗ウイルス薬などはなく、対症療法を行う。
COVID-19の重要な合併症として急性腎障害AKIが知られており2、またCKDはCOVID-19のリスク因子となると考えられる。ニューヨークのCOVID-19患者の基礎的な特徴の解析では、5%がCKDを合併しており、3.5%が末期腎不全を合併していた3。これは糖尿病(33.8%)に比べれば少ないが、COPD(5.4%)と匹敵する数字であり、肝硬変(0.4%)やウイルス性肝炎(0.1%)よりはるかに高い数字である。
COVID-19は重症肺炎を引き起こすのみならず、患者が在宅で長時間過ごすことによる生活習慣病の悪化、受診控えによる治療開始の遅延、医療機関への過剰な負担による医療崩壊など、様々な影響により、呼吸器以外の多くの疾患にも多大な影響を及ぼしている4。更には、短期間に多くの論文が出されたため、粗製乱造のデータも多くみられ、一部は捏造であることが判明するなどの大きな問題も起きている5,6。
日本腎臓学会は日本透析医会および日本透析医学会による新型コロナウイルス感染対策合同委員会に参加し、透析患者の感染状況を報告してきた。また、適切な情報提供の重要性を強く認識し、2020年5月1日に「新型コロナウイルス感染症ガイド」を発表したが、COVID-19に関する情報が日々更新され、状況が時々刻々と変化していることを踏まえ、今回ガイドの改訂を行った。一人ひとりの医療者には、本ガイドの記載内容に留まらず、診療する地域の患者数や医療資源なども鑑みながら、各所で柔軟な対応が要求されている。情報は随時更新されており、ニュース、行政のHPなどで最新の情報の確認が必要である。
- 1. Zhou F, Yu T, Du R, Fan G, Liu Y, Liu Z, Xiang J, Wang Y, Song B, Gu X, Guan L, Wei Y, Li H, Wu X, Xu J, Tu S, Zhang Y, Chen H, Cao B. Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study. Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1054-1062
- 2. Cheng Y, Luo R, Wang K, Zhang M, Wang Z, Dong L, Li J, Yao Y, Ge S, Xu G. Kidney disease is associated with in-hospital death of patients with COVID-19. Kidney Int. 2020 May;97(5):829-838.
- 3. Richardson S, Hirsch JS, Narasimhan M, Crawford JM, McGinn T, Davidson KW; and the Northwell COVID-19 Research Consortium, Barnaby DP, Becker LB, Chelico JD, Cohen SL, Cookingham J, Coppa K, Diefenbach MA, Dominello AJ, Duer-Hefele J, Falzon L, Gitlin J, Hajizadeh N, Harvin TG, Hirschwerk DA, Kim EJ, Kozel ZM, Marrast LM, Mogavero JN, Osorio GA, Qiu M, Zanos TP. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA. 2020 May 26;323(20):2052-2059.
- 4. Viglione G. How many people has the coronavirus killed? Nature. 2020 Sep;585(7823):22-24.
- 5. Ledford H, Van Noorden R. High-profile coronavirus retractions raise concerns about data oversight. Nature 2020 Jun;582(7811):160
- 6. Piller C, Travis J. Authors, elite journals under fire after major retractions. Science 2020 Jun 12;368(6496):1167-1168.
表. 状況、職種、活動種類に応じたCOVID-19流行時におけるPPEの使用例
・頻回の手指衛生および咳エチケットはすべての職種、状況において行われる。
・COVID-19確定患者、疑い患者とは可能な限り距離を保ち、室内では換気を保つこと。
・COVID-19流行時には、すべての人がマスク(サージカルマスク、布マスク等)を着用することが推奨されるが、個室内に1人でいる場合には、必ずしも常時着用する必要はない。
N95マスクの使用法についての注意点
・N95マスクを必要とする手技の前後は、水と石けんまたはアルコールでの手指衛生を行う。
・N95マスクの内側には触らない。着用時とシールチェック時には清潔な手袋(未滅菌)を使用する。
・N95マスクの形状にゆがみがないか、湿っていないか、視覚的に確認する。
・傷や破損がある、またはシールチェックに合格しない場合、使用せずに廃棄する。
・N95マスクは個人ごとの使用とし、保管する場合には使用したものを通気性のよいきれいなバッグに保管し使用する。
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状況 | 職種 | 活動内容 | PPEの使用例 |
医療施設 | |||
スクリーニング トリアージ 待合室 症状を持つ患者と離れた場所で、重症度評価を行う。 |
医療従事者 | 患者に直接接触しない、初期スクリーニング | ・サージカルマスク ・医療従事者と患者間にバリアを作るため、ガラスやプラスチックを置く。 ・バリアがない場合には、眼の防護具(ゴーグル、フェイスシールド等)をつける。 |
COVID-19患者および疑い患者 | 常時 | ・サージカルマスク ・すぐに患者を隔離部屋か他の人と分離された場所に移動させる。不可能な場合は、他の患者と可能な限り離す。 |
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COVID-19を疑う症状がない患者 | 常時 | ・マスク(サージカルマスク、布マスク等)をつける。 | |
病室 外来診察室 |
医療従事者 | エアロゾルを生み出す処置注1)以外 | ・サージカルマスク ・長袖ガウン ・手袋 ・眼の防護具(ゴーグル、フェイスシールド等) |
エアロゾルを生み出す処置注1) | ・N95マスクまたはそれと同等のマスク ・長袖マスク ・手袋 ・眼の防護具(ゴーグル、フェイスシールド等) |
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COVID-19患者および疑い患者 | 常時 | ・サージカルマスク | |
COVID-19を疑う症状がない患者 | 常時 | ・マスク(サージカルマスク、布マスク等)をつける。 | |
COVID-19患者および疑い患者の病室、外来診療室の清掃係 | 清掃 | ・サージカルマスク ・長袖ガウン ・頑丈な手袋(炊事用手袋) ・眼の防護具(ゴーグル、フェイスシールド等、飛沫がくることが予想される場合) |
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COVID-19患者および疑い患者への面会者(※原則、面会は推奨しない) | 面会(患者の室内に入るが、直接接触しない場合を想定) | ・サージカルマスク ・長袖ガウン ・手袋 |
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患者が立ち入らないエリア | すべての職員 | 患者と接触しないすべての活動 | ・マスク(サージカルマスク、布マスク等)をつける。 |
検査室 | 検査技師 | 血液検査などをCOVID-19確定患者から採取された検体で行う場合注2) | ・サージカルマスク ・眼の防護具(ゴーグル、フェイスシールド等) ・長袖ガウン ・手袋 |
受付 | すべての職員 | 常時 | ・サージカルマスク |
在宅診療 | |||
COVID-19患者および疑い患者の居宅 | 医療従事者 | 患者を直接ケアする場合 | ・サージカルマスク ・長袖ガウン ・手袋 ・眼の防護具(ゴーグル、フェイスシールド等) |
COVID-19患者および疑い患者 | 常時 | ・サージカルマスク | |
介護者 | 患者の室内に入るが、直接接触しない場合 | ・サージカルマスク | |
直接接触する場合または患者の排泄物を処理する場合 | ・サージカルマスク ・眼の防護具(ゴーグル、フェイスシールド等) ・長袖ガウン ・手袋 |