腎臓病診療における新型コロナウイルス感染症対応ガイド

透析患者、透析施設におけるCOVID-19対応 dialysis

1. 透析患者の COVID-19 の現況

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した透析患者の転帰は、それぞれの国や地域の透析医療や集中治療の体制の違いにも影響を受ける。中国の武漢では61か所の医療機関で7184名の患者が透析を受けていたが、ある病院では230名の患者のうち37名が感染し、同院の33名の職員のうち4名が感染した。透析患者の死者は7名であったが、心血管疾患が直接死因でCOVID-19 感染症が直接の死因かどうか不明な症例も含まれている1。一方、ヨーロッパからの報告では透析患者の死亡率が20%以上のものが多い2, 3

2020年10月9日現在、日本の透析患者の感染者数270例、死者数38例、死亡率は11.1%である4。透析患者のCOVID-19患者の年齢分布はわが国全体の感染者に比べると、高齢者が多く、透析患者の年齢層を反映し、透析患者では70歳以上が半数を占めている。50-69歳の群での死亡率は9.7%、70歳以上で21.1%となっている。これは6月以前の報告における値とほとんど変化がない。患者全体でみると、わが国の医療機関から広く患者を登録している「COVID-19に関するレジストリ研究」の報告では入院後に死亡した症例は50-69歳が4.3%、70歳以上が14.9%であった。この報告では6月5日以降のいわゆる第二波においては、死亡率がそれ以前の発生者に比べて低下していると報告されている5。このレジストリと比較すると、透析患者のCOVID-19の予後が厳しいものであることが理解される。

2. 透析患者のリスク

透析患者におけるCOVID-19 リスクは、患者側因子と治療方法や環境に起因する因子があり、ともに重要な課題である。

特にわが国の透析患者は原因疾患の39%が糖尿病性腎症、11%が腎硬化症でかつ65歳以上の高齢者が3分の2を占めていることから、上述の重症化因子を背景にもつ高齢者の集団である。透析患者ではもとより死因の20%強が感染症である6。これは尿毒症そのものが免疫能を低下させたり、腎性貧血、体液過剰、低栄養状態などの宿主側の因子が感染症を難治性に陥らせやすい病態を有しているためであると考えられる。従って個々の患者の上記要因を可及的に小さくするような質の高い管理を行うことの重要性は言うまでもない。

全国的には6月以降の第二波の流行においては重症度や死亡率がそれ以前よりも軽減している傾向にあるが5、透析患者の感染確認者数の報告では、当初から現在に至るまで死亡率は10%以上で、37.5℃以上発熱を訴えた患者の比率も75%以上が続いている4

医療現場での標準予防策は、日ごろから必要な最低限の感染対策である。施設透析は集団で治療が行われることから、感染は拡大しやすい。新型コロナウイルスは、プラスチック、ステンレス、紙の上では72時間生存することが最近報告されており、エアロゾルから伝播することもわかっている。従ってCOVID-19の感染拡大を防止するためにさらに注意すべきこととして、次のような対策が策定されている。

3. 透析患者が注意すべきこと

1) 毎日体温を測定する。平熱を把握することで体温上昇の発見がしやすくなる。37.5℃以上の時、その他体調不良を自覚した場合は、来院前に施設に連絡をし、指示を仰ぐ。

2) 手指衛生、マスク装着等を励行する。マスクは正しく装着する(鼻梁を覆うとともに、マスクのひだを伸ばし、あごの下まで覆う)。マスクの着脱後には手指衛生を行う。

3) 心不全症状はCOVID-19の症状と似ているのみならず、うっ血性心不全は呼吸器感染症の重症化を起こしやすくするため、体重管理、塩分、水分の過剰には従来にも増して厳重に注意する必要がある。

4) 透析施設の控室、更衣室を含めて、換気の悪い「密閉」された空間をさける、多くの人が発声を伴う行動(歌唱や会話等)を、対面を含む「密接」した状況で行わない、一定時間の接触が(密集)した状態で発生しないように注意する。

5) COVID-19が疑われ、検査結果が未着の時期は、時間的または空間的隔離をして透析を実施し、更衣室や休憩室を使用しない。低血糖対策のブドウ糖などを除き、透析中の飲食は控える。

6) COVID-19が疑われた場合、通院は,他者との接触ができるだけ少ない方法を用い、正しくマスクを着用して移動する。

4. 透析医療従事者が注意すべきこと

1)透析医療従事者は感染制御に関する講習やPPE着脱に関するトレーニングをうけ、飛沫感染予防策と接触感染予防策を適切に行う必要がある。

2)手指衛生、マスク装着等を励行する。マスクは正しく装着する(鼻梁を覆うとともに、マスクのひだを伸ばし、あごの下まで覆う)。マスクの着脱後には手指衛生を行う。

3)集まっての回診、会議、カンファレンスにおいては、3密を避ける。

4)職員の休憩時間には向かい合った状態を避け、時間や場所をずらして食事や休憩をとるなど、マスクを外している他者との接触時間を少なくする。

5)共用物品からの感染を防ぐため、透析装置、ベッド、電子カルテ等のキーボード・マウス、把手・ドアノブ・電話機・PCの画面等は定期的に消毒する。

6)休憩室など共有物品や共用スペースを使用した後は手指衛生を実施する。

7)体温測定を行い、異常の早期発見を行う。

8)行動歴、接触歴は万一自分自身や接触者でCOVID-19の感染が確認された場合に重要な情報である。自ら記録したり、接触アプリを利用する。

9)発熱や体調不良を自覚した場合は、責任者に申告し、出勤しない。

5. 患者の診療にあたって

1)息切れや咳嗽、低酸素血症などの症状が見られる患者の診療にあたっては、心不全症状との鑑別が重要である。

2)感染兆候が見られる患者に対し、他の感染症、特に流行期ではインフルエンザの診断を行う。COVID-19検査の結果が判明するまでは、飛沫感染を防御するための個人防護具を使用し、空間的に他の患者との距離をあける、可能であれば時間的隔離を行うなどして、自施設での透析を行う。

3)透析患者でCOVID-19感染が確認された場合、わが国では症状がなくとも中等症と定義づけられ、入院で管理、治療を行う。医療機関から管轄の保健所に連絡し、感染症指定医療機関ないし入院協力医療機関、または受け入れ可能な入院先の調整をする。

4)透析施設の患者または医療従事者にCOVID-19が発生した場合、二次感染の拡大を防ぐため、次のような対策をおこなう。保健所の指導の下、施設の消毒とともに、「濃厚接触者」に対しては、「感染患者(確定例)」の感染可能期間の最終曝露日から14日間は健康観察期間として、前向きのフォローアップを行う4

5)濃厚接触者は感染可能期間に接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。「感染可能期間」とは、上述したようなCOVID-19を疑う症状を呈した 2 日前から隔離開始までの間を指す7

濃厚接触者の定義

ⅰ. 患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者。患者(確定者)のベッドの隣で透析を実施している患者で双方のマスク着用に不備があった場合などが該当する。

ⅱ. 適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者

ⅲ. 患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者、透析患者の場合は他のクールで同じベッドを使用している。

ⅳ. その他: 手で触れることの出来る距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定例)」と15分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)。

参考文献、URL